別にナショナリズムを鼓舞せよというのではなく、海の向こうのメジャーリーグで大活躍しているイチローや佐々木、松井に関するニュースが日々、新聞やテレビで報じられ、国民は大いに期待しながら熱い眼差しで見守っている。
それと似たような、もつと素朴な意味合いが国産旅客機にもあると思える。
だが、この業界は閉鎖的で、まともな情報すらも外部に流そうとしない。
マスコミにあることないこと、臆測記事を脅かれて騒がれたりすることを、もつとも恐れているからだ。
極端な言い方をすれば、メーカーにとって情報を外部に発表することで、自社あるいは業界をアピールできて、九九パーセントのメリットがあるとしても、一パーセントのマイナス要素あるいは不確定要素が予想されるならば、もし問題になったとき、社内で、あるいは防衛庁から指摘されかねない。
それならば出さないほうが得策だと判断するのが、この業界のピへイビアなのである。
それは、つい七、八年ほど前まで、防衛需要が八0ー九〇パーセントも占めていて、防衛庁が大のお客さんであり、それがすべてであったからだ。
数十年にわたり、そのように育ってきて、そうした考え方を従事者のすべてが無意識のうちにも身に付けてきてしまったので、過剰なほど防衛庁に気を使って萎縮していて、ものごとに慎重となり、消極的となって外部に対して窓を閉ざしてしまう習性を身に付けてきてしまっている。
それは、他の産業と比べたとき、異常と思えるほどである。
グローバル化が叫ばれ、他の産業では巨大合併や再編、外国企業に乗っ取られたり、中国をはじめとするアジアの国々の台頭で、コスト競争に負けないためにとアジアへの工場移転が続いている。
さまざまな面での産業の空洞化が起こって、日本の将来像がいかなるものとなるかが議論されている。
ところが日本の航空機産業だけは「唯一の空洞化していない産業」と皮肉られている。
また郎暢気味に自分たちの業界を。
航空機村。
と呼んだりしている。
時代錯誤で閉鎖的であることがはっきりとわかるが、この世界で育った人間には実感としてわからない。
それも、最先端技術分野で波及効果がきわめて高いと喧伝し、彊い文句にしているにもかかわらず、過保護な防衛需要に浸ってきて競争がないのも当然視しているので、産業としての広がりや活気がないのである。
たとえ国民の税金で成り立っているとはいえ、防衛機密の問題もあるから、防衛庁機の生産だけに専念するならば、ある面で理解できなくはない。
だが、この姿勢では、民間機ビジネスの成功は難しいといえよう。
海千山千のすさまじいこの世界では、あらゆるものを利用していくくらいしたたかで、また外に向かって存在をアピールし、情報発信していく必要がある。
成功している欧米の旅客機メーカーほどその姿勢はオープンで、マスコミに対しても積極的に情報、資料を流しているからだ。
経済産業省の新居課長補佐もまた、このパネルディスカッションの最後で似たようなことを強調している 。
「この課にきてまだ二年だが、航空宇宙分野はじつに面白い分野だと実感している。
技術の面白さだけでなく、技術マネージメントというか、パワーゲームのビジネスが戦略的にやられているんだなあと日々実感しています。
確かに売上高でいえば、自動車産業の約四〇分の一であって、はるかに小さい規模かもしれないが、役所には毎日のように外国の企業や政府の人間がやってくるし、非常にエキサイティングな人たちにも会うし、安全保障にもからむなど、ほかの分野では体験できない面白さがある。
最近つくづく思うことは、マネージメントの面でも、もつともつと人材が必要だと感じている。
航空宇宙技術がわかりつつ、諸外国とまた世界の企業と戦略的に渡り合っていげるように、日本をしたたかに、強くするためにも」それだけではない。
開発費の半分が国の予算でまかなわれる、この巨大な民間機プロジェクトは、数百億円、さらにはもつと巨額の国民の税金が投入されることになる。
「欧米から大きく引き離されている現在、なぜいまさら日本で旅客機を作らなければならないのか」「金ばかり食った挙げ句、結局は売れない旅客機を作ってみてもしかたがないではないか。
それは、単に業界の一時的な仕事を作ってやる公共工事と同じではないか」「いまの時代、なにからなにまですべて自国で作らなければならないという道理はないし、得手不得手があるのだから。
外国から買ったほうが総合的に見て安上がりだし、貿易摩擦の解消にもなる」少なくとも、こうした疑問や批判に対して答える必要があろう。
たかが数百億円あるいは一〇〇〇億円くらいの予算を注ぎ込む程度だから、それほど大げさに考えることはないとの意見もあろう。
だが、民間機開発がすべて順調に進んでいけば問題はないが、YSHだけでなく、世界の多くの実例が示しているように、たとえ商業化を決断して量産段階に入っても、何年にもわたって赤字が続くことは避けられない。
直接の開発資金だけでなく、さまざまな制度や支援態勢、優遇措置などが整っていかなければ民間機ビジネスは成功しないし、日本に根付かないことはわかりきっている。
ならば、政府や政治家のバックアップ、銀行や投資家の理解も得なければならない。
なにより、国民の理解を得、味方につけなければ、支援のための予算は続かなくなる恐れがある。
YSHはまさしくその理解が得られないと見て、説明責任を果たさず唐突にも生産の中止を急謹決めたのである。
今後、日本の航空機産業を、いかに育成していくべきかといった議論をまったくすることもなく、累積した赤字の問題を国会で追及されたため、その批判が大きくなって責任問題へと発展することを、政治家および自民党が恐れたからである。
こうした過去の例を思い起こすとき、ことあるごとに業界内からさまざまなチャン、ネルを使って情報を発信しつ,つけてアピールし、関心をもってもらわねばならない。
そうでなければ、緊縮財政のこの時代、無駄金であると批判される最近の公共事業と同じと見なされてしまう可能性が十分にある。
高速wm船腕の「もんじゅ」やH2Aロケットにしても、順風のときは問題にされなくても、状況が悪くなると、とたんに厳しい批判を浴びている。
なんのために、将来的にどのような意義やメリットがあるのかの説明がなく、浸透もしていない。
国民には見えてこないので、いま一つ盛り上がりも関心もない。
以上のような、主旨のことを学会のパネルディスカッションで喋ったのだった。
売れる、儲かる飛行機じゃないと一方、鳥養はこの業界にしびれを切らすかのごとく、筆者よりはるかに口調が激しかった。
すでにYSXの章でも一部紹介したが、一九八〇年代から九〇年代にかけて、富士重工から日本航空機開発協会に出向して担当してきたYSXの経過について触れ「我々はYSUのあと、なにもしなかったわけじゃない」とし、今年から日本が取り組もうとしている三〇席の小型ジェット機を念頭に置いて、拙著の『日本はなぜ旅客機をつくれないのか」も引き合いに出しながら力説した。
「日本は旅客機を作れないのじゃない。
作るのはどうってことはない、すぐにでも作れる、苦労はするだろうが。
おれたちでもYSHは作れたんだから。
ただ、作っても儲かる自信がないから作らないんです。
新規参入しようとするとき、WT〇(世界貿易機関)などの産業障壁もますます高くなってきて難しくなっている。
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